薬剤を用いてがんの進行を防ぐ、抗がん剤療法について解説します。
手術療法や放射線療法とあわせ、抗がん剤療法はがんにおける三大治療のひとつであるといわれています。
抗がん剤治療は、医師免許を有する医師であれば実施可能ですが、より高度な専門性を証明する資格として、以下のような認定制度があります。
一つは、日本がん治療認定医機構が認定する「がん治療認定医」です。主に外科医が取得することが多く、がん診療に関する幅広い知識を持つ医師として認定されます。
もう一つは、日本臨床腫瘍学会が認定する「がん薬物療法専門医」で、これは抗がん剤治療の専門性を高めた内科医が対象となります。
なお、これらの資格を持たない医師でも抗がん剤治療を行うことは可能です。しかし、がん薬物療法は高度な専門知識と経験を要するため、専門医資格を持つ医師による治療が推奨される場合があります。
2025年4月17日時点での「がん薬物療法専門医」は1,744名。その多くは都市部の大学病院やがんセンターに在籍しており、都市部以外の地域医療を支える開業内科医には数えるほどしかいません。地域医療の充実という観点から、がん薬物療法専門医の育成強化が望まれます。
抗がん剤とは、いったいどのような薬なのでしょうか。この薬は点滴、注射、または飲み薬として処方され、体内に入ると血液に乗って全身を巡りがん細胞を攻撃する薬です。
手術や放射線と異なり局所的な治療ではなく、全身にその効果が及びます。がんが転移している可能性があることを考えると、いいことが多いように感じますが、全身に影響が出るぶんそれだけ正常な組織を傷つける可能性も増えるのです。その結果、副作用がおこります。
抗がん剤の副作用として、脱毛する可能性があることをご存じの方は多いのではないでしょうか。これは毛根細胞が傷つくことが原因でおきる症状です。ほかにも造血細胞が傷つくことで貧血になりやすくなったり、白血球が減り抵抗力が落ちることで感染症にかかりやすくなったりします。吐き気や嘔吐も、抗がん剤の副作用として代表的な症状です。
しかし、最近では副作用を抑える薬が登場し、抗がん剤の治療成績は大きく向上しています。以前は副作用が強く、体力の低下により治療の継続を諦めざるをえなかったケースも、今では副作用を抑えることで治療を続けることができるようになったからです。
2025年時点でも多くのケースで脱毛は避けがたい副作用のひとつですが、抑制するための工夫も進んでいます。抗がん剤治療では、毛根の細胞が影響を受けて髪が抜けてしまうことがあります。ただし、すべての薬剤で必ず脱毛が起こるわけではなく、薬剤の種類や投与方法によって程度は異なります。
頭皮を冷却することで血流を抑え、薬剤が毛根に届きにくくする「スカルプクーリング」と呼ばれる方法が使われることもあり、一定の条件下では脱毛の軽減が期待されています。
また、がん治療に関する理解が広まり、医療用ウィッグや帽子なども選びやすくなってきています。脱毛を一時的な変化と受け止め、外見の変化も自分らしく前向きに工夫して受け止める患者さんも多く見られます。
がん治療に使われる「抗生物質」は、通常の細菌感染症に使われる抗生物質とは異なり、**がん細胞のDNAに作用して増殖を抑える抗腫瘍抗生物質(例:ドキソルビシン、ブレオマイシンなど)**を指します。これらの薬剤は、DNAの複製を阻害したり、DNAに損傷を与えることでがん細胞を死滅させます。
がん細胞のDNAに対して原子の塊であるアルキル基と呼ばれるものを付着させることにより、DNAの二重らせん構造を壊し、複製を妨げる作用があります。これにより、がん細胞の分裂・増殖が阻止されます。
植物由来の抗がん剤で、以下の2系統に大別されます。
目的のがん細胞をねらって効果的に効率よく働きかける抗がん剤です。がん細胞に特有の分子構造(受容体や酵素など)を標的にして作用する薬剤です。正常な細胞への影響を抑えながら、がん細胞をピンポイントで攻撃できるのが特徴です。
ただし、薬剤によっては間質性肺炎や重篤な肝機能障害などの副作用が報告されており、副作用モニタリングや慎重な投与判断が求められます。
T細胞の働きを抑制する「免疫のブレーキ」に作用し、がん細胞を免疫の監視下に引き戻す新しい治療法です。
PD-1、PD-L1、CTLA-4などを標的にした薬剤(例:ニボルマブ、ペムブロリズマブなど)は、肺がん、悪性黒色腫、腎がんなどで標準治療として導入されています。免疫関連副作用(例:自己免疫性肺炎、甲状腺機能異常など)に注意が必要です。
DNAの合成に必要な酵素の働きを妨げ、がん細胞の分裂を止める薬剤です。メトトレキサート、フルオロウラシルなどが代表例です。正常な細胞にも影響するため、骨髄抑制や口内炎などの副作用に注意が必要です。
ホルモンの影響で進行するがん(乳がん、前立腺がんなど)に対して使用されます。ホルモンの分泌や受容体への作用を抑えることで、がん細胞の成長を防ぎます。
シスプラチンやカルボプラチンに代表される薬剤で、DNAに架橋を形成して複製を妨害します。がん細胞をアポトーシス(自滅)に導く作用がありますが、腎障害や聴覚障害などの副作用があり、水分補給や支持療法が重要です。
インターフェロンやインターロイキンなど、免疫系を活性化させてがんを抑える治療法です。がん細胞を直接攻撃するというより、患者自身の免疫機構を利用して腫瘍の成長を制御します。
抗がん剤の治療期間は、がんのタイプ等により異なります。以下、「はじめての治療」「進行がん・高リスクがんの治療」「一部がん・再発性がんの治療」に分け、それぞれの治療期間の目安を確認してみましょう。
飲み薬による抗がん剤治療の場合、一般的には3~4週間の服用を1サイクルとし、これを4~6サイクルを繰り返します。ただし、治療中に明らかながんの進行が見られた場合には、いったん当該の抗がん剤治療を中止し、治療方法を再検討することもあります。
飲み薬以外の薬による抗がん剤治療の場合、投与期間と休薬期間を1サイクルとし、主治医の判断により数回のサイクルを繰り返します。飲み薬による抗がん剤とは異なり、毎日投与することはありません。
進行がん・高リスクがんの抗がん剤治療は、数か月から1年以上を要することがあります。この場合の抗がん剤治療は、寛解を目指すというよりも症状の緩和・安定を目指すことが治療目的となります。
一部がんや再発性がんの抗がん剤治療は、数年を要することがあります。この場合の抗がん剤治療は、がん細胞に耐性が付くリスクの抑制や再発リスクの軽減が治療目的となります。
抗がん剤投与の流れとして、通院による点滴投与を例に見てみましょう。あくまでも以下は「例」である点にご注意ください。
抗がん剤の投与が始まる1時間以上前に、吐き気止めを服用します。抗がん剤治療による主な副作用の1つが「吐き気」「嘔吐」だからです。
吐き気止めの服用に重ね、吐き気止めの点滴を行います。患者の体質や抗がん剤の種類等により、「吐き気」「嘔吐」の症状が軽い方、ほとんどない方、重度の方など、様々な患者が見られます。
約15分間、抗がん剤を点滴します。
約30分間、別の抗がん剤を点滴します。
抗がん剤の投与後、生理食塩液を点滴します。抗がん剤の輸液セットには、点滴後15~20mlほどの薬液が残存しているため、この残存薬液を洗い流す目的で生理食塩水を注入します。
抗がん剤の投与にはいくつかのタイプがあり、それぞれのタイプにより投与の流れは異なります。
仮に上記の流れで抗がん剤を投与した場合、1回の治療に要する時間は計65分。ただし、上記と異なる投与パターンでは、1回の治療に数時間を要することもあります。
抗がん剤の投与の流れや所要時間等の詳細については、個別で主治医に確認するようにしましょう。
同じ抗がん剤でもどのような使い方をするのか、どのようなサイクルで行うのかによって費用に 違いがあるため、一概にはいえません。医師とよく相談をし、費用について確認しておきましょう。 一般的には1回の治療に6週間ほどかかり、人それぞれ何クール実施するかが違うので、こういったポイントもよく確認しておかなければなりません。
連続して抗がん剤治療を行うのではなく、抗がん剤によって損傷を受けた正常な細胞が回復してから次のクールに移ります。休薬期間を設けることによって効率よく治療を行っていくことができるのです。 それから、注意しておかなければならないのが健康保険適用外の抗がん剤があるということ。病院でがん治療を受ける際に必ずしもすべてが保険適用になるわけではありません。飲み薬だけでも一錠あたり何千円といった費用が発生します。点滴でも数万円の費用が発生するため、医師の判断でどのような治療が選択されるかによって違いは大きくなるのです。
人によって最も効果を出すために必要な量も違います。体の大きさが少し変わるだけでも必要量は変わってくるわけなので、自分の場合はいくらの治療費がかかるのかよく相談した上で理解しましょう。 一般的に、健康保険というのは最低限の補償を行うための制度であるため、未承認の抗がん剤を使う場合などは対象になりません。自由診療になると一気に自己負担額が大きくなるため、費用についてもよく確認が必要です。
治療法によっては高額療養費制度の対象になり、一定の額を超えた金額については還付金が受けられるものもあります。また、高額になりがちな抗がん剤の費用を賄うためにがん保険に加入しておくと安心です。こういったものも上手に役立てながら治療を進めていきましょう。
抗がん剤を用いた治療を行うことになった場合、日常生活での注意点などについても理解しておかなければなりません。近年は通院で治療できる病気も増え、抗がん剤についても入院をせずに外来通院を行うケースが増えてきました。
これは何十年も昔に比べると抗がん剤の研究が進み、副作用が少ないものに変わってきた背景があります。抗がん剤と組み合わせて行う治療法も発達しており、必ずしも入院しなければならないほどの副作用があるわけではないのです。
外来化学療法を受けている患者に対して行われた調査では次のような結果が出ています。
外来化学療法患者の主な生活障害は全身倦怠感と化学療法を受けることによって引き起こされていた。全身倦怠感による生活障害は生活範囲の狭小化・生活活動の制限や低下・意欲・気力・集中力の低下・対人関係の制限・精神的負担などであった。食欲不振と嘔気および味覚の変化による障害は食事量の低下や食事の楽しみの低下、下痢と脱毛による障害は外出の制限、嘔吐による障害は内服の困難などであった。
また、自分の身体状況に合った生活の仕方を工夫するのが難しいと感じている方も多く、今まで通りに仕事ができないことや食生活の変化、健康状態への不安などに悩まされている方もいます[1]。
抗がん剤治療を行う場合、日常生活がかなり制限されてしまうのでは…と不安に思っている方もいるかもしれません。ですが、医師から何か特別の指導がない限り、自分で体調をよく考慮しながら出かけたりすることは全く問題ないでしょう。
仕事の復帰時期などについても医師に相談しながら決めていくことになります。
ただ、仕事を再開したためにスケジュール通りの放射線療法ができないようなことになると大変です。抗がん剤治療を行う以上、どうしても医師が考えた治療スケジュールに従わなければなりません。
また、家でゆっくり過ごしているのとは違い、仕事を開始した場合にはそれまでとは違う体調の変化が現れる可能性もあります。予想される変化については事前に医師や看護師、薬剤師に良く確認し、仕事に復帰するにしてもまずは短い時間から検討するようにしましょう。
社会復帰するためには周りのサポートも必要です。もしも勤務時間の長さなどの問題から今までの職場で引き続き働いていくことが難しいと感じた場合にはハローワークなどに相談し、希望に合う企業を探してもらった方が働きやすいでしょう。
抗がん剤によって発生する副作用は人によって違います。吐き気や食欲不振、下痢などを感じていたとしても、食事を全く摂らずにいると体力も失われていくので注意しなければなりません。
こういった症状がひどく出ている場合、担当医に吐き気止めや下痢止めを処方してもらえないかを相談してみるのがおすすめです。医師に薬の処方をお願いする際には、具体的にどのような症状がいつ、どれくらいの強さで出ているのかをきちんと説明した方が最適な薬を出してもらえます。普段から体調の変化については細かくメモを取っておきましょう。
それから、抗がん剤治療を始めてからはそれまでの生活に治療の時間を組み込んでいかなければならず、スケジュールも変わってきます。それまでと同じ予定を継続していくことは難しいケースもあるため、新しくスケジュールについて考えてみましょう。
副作用のせいで予定していたことが実現できなくなるケースもあるかもしれません。人によって抗がん剤治療時に向いている生活のリズムが異なるため、自分自身はどのような生活リズムであれば快適に過ごせるのかを見極めることも重要です。
抗がん剤の副作用として現れる症状の中には、だるさや疲労感など周りの人にはなかなか伝わりにくいものもたくさんあります。そのため、無理をすると辛さを理解してもらえなくなるのです。
大変な時は周囲へのサポートを求め、抗がん剤治療を行っていきましょう。
自分が今どのような状態にあるのか、何をするのが辛いのかを家族や知り合いに伝えておけば、適切なサポートが受けられるはずです。
【参考URL】
当サイトでは、保険診療で受ける「抗がん剤治療」と、自由診療で受ける「トモセラピー」や「樹状細胞ワクチン療法」でステージ4のがんを治療する方法について紹介しています。がんの進行度により、医師と相談して検討しましょう。
画像引用元:クリニックC4公式HP
(https://cccc-sc.jp/)
痛み・副作用の少ない放射線療法
放射線治療のトモセラピーに特化したクリニックで、重粒子線、陽子線などの先進医療での治療を断られた方にも、ステージ4で「手立てがない」と言われた方にも、身体に優しいがん治療をお探しの方にも、痛み・副作用の少ない治療を行います。薬剤との併用により、より積極的な治療を行うことも可能です。
所在地 | 東京都渋谷区元代々木町33-12 |
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電話番号 | 03-6407-9407 |
画像引用元:銀座鳳凰クリニック公式HP
(https://www.ginzaphoenix.com/)
患者の細胞からワクチンを作製
免疫細胞を研究している院長のもと、免疫の司令塔である樹状細胞を使ってがん免疫療法を行っているクリニックです。患者様専用のワクチンを作るイメージで、治療の手立てがないと言われた患者様へも提供可能な治療法です。しっかりと寄り添って治療を進めていく姿勢も、治療を選択する要因になっているようです。
所在地 | 東京都千代田区外神田4-14-1 秋葉原UDXビル北ウィング6F |
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電話番号 | 03-6263-8163 |
画像引用元:がん研有明病院公式HP
(https://www.jfcr.or.jp/hospital/)
新しいがん治療薬の導入に積極的
抗がん剤による薬物療法が進む中、「先端医療開発科」が創設され、新しいがん治療薬での治療をいち早く受けられるよう、早期臨床開発を推進している病院です。幅広い知識と経験を持つ専任医師とスタッフが、それぞれの患者様に合った臨床試験を提案し、これまでの薬では治らなかったがんの治療に取り組んでいます。
所在地 | 東京都江東区有明3-8-31 |
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電話番号 | 03-3520-0111(大代表) |