がん免疫療法は、患者自身の免疫の力を活用してがん細胞を攻撃する革新的な治療法として注目されています。これまでも免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法など、さまざまな技術が登場してきましたが、いま世界の研究者たちが次に注目しているのが、「遺伝子編集」と免疫療法の融合です。
中でも、CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)という遺伝子編集技術は、「ゲノムのハサミ」とも呼ばれ、狙った遺伝子をピンポイントで切り取り、修正・無効化することができる技術として知られています。
この技術を使って、がんに対する免疫細胞(T細胞)を「より強く、より賢く」改造し、がんへの攻撃力を高めようという試みが、いま世界中で加速しています。
免疫療法と遺伝子編集が出会うことで、がん治療はどのように進化しようとしているのか。本記事では、その基本から応用例、課題、そして今後の展望について解説します。
CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)とは、もともと細菌がウイルスに対抗するために持っている自然の防御機構を応用した技術です。
この技術では、Cas9という酵素(ハサミの役割)と、狙いたい遺伝子の場所を指定するガイドRNA(ナビゲーション役)を用いて、特定のDNAを切断・編集します。
ポイントは以下の通りです:
がん治療においては、CRISPRを使って免疫細胞を強化・最適化し、がん細胞をより効率的に攻撃できるように「改造」するという応用が進んでいます。
遺伝子編集技術と免疫療法が最も効果的に融合している領域の一つが、T細胞療法の改良です。
がんは、T細胞の「PD-1」というブレーキを利用して、免疫攻撃をかわすことがあります。そこで、CRISPRを使ってこのPD-1遺伝子をノックアウト(無効化)することで、T細胞ががんに対して“遠慮せず”攻撃できる状態に改造されます。
このアプローチは、2016年に中国で世界初のヒト臨床試験が実施され、安全性と一定の効果が確認されました。その後、米国をはじめとした複数の国でも類似の臨床研究が行われています。
CRISPRは、CAR-T細胞療法の高度化にも活用されています。CAR-Tとは、がん細胞の特定抗原に反応する受容体(CAR)をT細胞に導入する治療法ですが、
など、CRISPRを使って複数の遺伝子を同時に編集することで、治療効果の向上と副作用の抑制、さらには“汎用型の細胞製品”の実現が期待されています。
固形がんは腫瘍微小環境が厳しく、従来型のCAR-T細胞が腫瘍内部に入り込めず機能を失いやすいという課題があります。そこで研究者は CRISPR を用いた多遺伝子編集 で T 細胞を“固形がん仕様”に改造する戦略を進めています。
Caribou Biosciences の CB-010 では PD-1 欠失により in vivo での持続活性が向上し、固形がんでも腫瘍縮小例が報告されています。
Cas12aやベースエディター(ABE8e)を使い、TCR発現とMHCクラスIを同時に除去することで、拒絶反応なく大量生産可能なオフ・ザ・シェルフ型 CAR-T が実現しつつあります。編集効率95 %超という最新データも示されました。
CRISPR Therapeutics は GPC3 標的の自家 CAR-T(CTX131)を 2025 年前半に臨床入りさせる計画で、肝細胞がんなど難治性固形腫瘍への応用が期待されています。
これらの多重編集により、浸潤力・生存力・標的特異性をすべて高めた“T細胞スーパーチャージャー”が固形がん攻略の鍵になると目されています。
遺伝子編集がもたらす利益の裏には、依然としてクリアすべきリスクが存在します。
CRISPR/Cas 系は高精度とはいえ、意図しない遺伝子を切断する可能性が残ります。最新のレビューでも、安全性向上には高忠実度 Cas 変異体や厳密なゲノム解析が必須と指摘されています。
FDAは2024年、既承認 CAR-T 全品目に「T 細胞由来二次血液がん」リスクを警告する黒枠追加を義務づけました。遺伝子編集製品でも長期モニタリング体制が不可欠です。
米 FDA は 2024 年に「ゲノム編集を組み込むヒト遺伝子治療製品の開発指針」草案を公表。多重編集製品のポテンシー評価や製造管理の基準作りが進行中です。
患者の遺伝情報を扱う点でも倫理的配慮が必須であり、インフォームド・コンセントの質やデータ保護体制が治療普及の前提条件となります。
Cas12a の一括編集やプライムエディティングを組み合わせ、1 回の工程で 5〜10 遺伝子を同時に改変するプラットフォームが開発中です。製造期間の短縮とコスト圧縮が見込まれます。
AI 創薬パイプラインでは、患者の腫瘍ゲノムと HLA 型を解析して「最も有効かつ安全な編集セット」を自動提案する試みが進行中。治療設計そのものがデジタル化される未来が近づいています。
脂質ナノ粒子(LNP)などの送達技術が進歩し、体内で直接 T 細胞を編集して活性化させる in situ CAR-T 構想も登場。治療コストと入院期間の劇的削減が期待されます。
多国間での治験データ共有や、患者登録制度によるリアルワールドエビデンスの集積が進めば、編集免疫療法の安全性評価はより精緻になります。規制当局と学会・産業界が歩調を合わせることが、商用化スピードを左右するでしょう。
遺伝子編集技術、とりわけ CRISPR-Cas システムは、がん免疫療法に以下のような革新をもたらしつつあります。
進化ポイント | インパクト | 現状と今後 |
---|---|---|
多重編集で T 細胞を強化 | 浸潤力・持続力・特異性が飛躍的に向上 | 固形がん向け治験が2025年前後に拡大予定 |
ユニバーサル製造 | 患者待機時間とコストを大幅削減 | オフ・ザ・シェルフ CAR-T が第III相へ |
AI との統合 | 最適な編集セットを自動設計 | 個別化治療プランが外来レベルで提案可能に |
in vivo 編集 | 点滴や注射のみで T 細胞を現場改造 | 前臨床段階だが低侵襲化の切り札 |
これらは、「患者ごとにゲノムを設計し、最適化した免疫細胞でがんを制圧する」という、かつて SF とも思えた未来像を現実のものにしつつあります。一方で、オフターゲット変異や長期安全性、費用と倫理、国際的な規制統一など、乗り越えるべき課題も明確になりました。
今後 10 年で、CRISPR と免疫療法の融合は「効かないがんが減る」だけでなく、治療の待機時間短縮・費用低減・予防的活用へと広がり、がん医療の地図を書き換えていくでしょう。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。実際の治療法選択は、患者さん個々の病状や主治医の判断によって異なります。免疫療法・遺伝子編集治療を検討される際は、必ず専門の医療機関にご相談ください。
当サイトでは、保険診療で受ける「抗がん剤治療」と、自由診療で受ける「トモセラピー」や「樹状細胞ワクチン療法」でステージ4のがんを治療する方法について紹介しています。がんの進行度により、医師と相談して検討しましょう。
画像引用元:クリニックC4公式HP
(https://cccc-sc.jp/)
痛み・副作用の少ない放射線療法
放射線治療のトモセラピーに特化したクリニックで、重粒子線、陽子線などの先進医療での治療を断られた方にも、ステージ4で「手立てがない」と言われた方にも、身体に優しいがん治療をお探しの方にも、痛み・副作用の少ない治療を行います。薬剤との併用により、より積極的な治療を行うことも可能です。
所在地 | 東京都渋谷区元代々木町33-12 |
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電話番号 | 03-6407-9407 |
画像引用元:銀座鳳凰クリニック公式HP
(https://www.ginzaphoenix.com/)
患者の細胞からワクチンを作製
免疫細胞を研究している院長のもと、免疫の司令塔である樹状細胞を使ってがん免疫療法を行っているクリニックです。患者様専用のワクチンを作るイメージで、治療の手立てがないと言われた患者様へも提供可能な治療法です。しっかりと寄り添って治療を進めていく姿勢も、治療を選択する要因になっているようです。
所在地 | 東京都千代田区外神田4-14-1 秋葉原UDXビル北ウィング6F |
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電話番号 | 03-6263-8163 |
画像引用元:がん研有明病院公式HP
(https://www.jfcr.or.jp/hospital/)
新しいがん治療薬の導入に積極的
抗がん剤による薬物療法が進む中、「先端医療開発科」が創設され、新しいがん治療薬での治療をいち早く受けられるよう、早期臨床開発を推進している病院です。幅広い知識と経験を持つ専任医師とスタッフが、それぞれの患者様に合った臨床試験を提案し、これまでの薬では治らなかったがんの治療に取り組んでいます。
所在地 | 東京都江東区有明3-8-31 |
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電話番号 | 03-3520-0111(大代表) |